3 January 2026

The Wall Street Journal (United States)

福島の記憶薄れる日本、原発の役割拡大を目指す

政府は電源構成に占める原子力の割合を倍増させたいが「原子力ルネサンス」はまだ遠く
Source : The Wall Street Journal: 福島の記憶薄れる日本、原発の役割拡大を目指す https://jp.wsj.com/articles/as-memories-of-fukushima-fade-japan-seeks-bigger-role-for-nuclear-power-4172ab8a

By Jason Douglas and Junko Fukutome

【東京】東京から約290キロ離れた日本海沿いの砂浜海岸で、巨大な原子炉が10年以上の運転停止期間を経て、間もなく再稼働する。

 柏崎刈羽原子力発電所6号機の再稼働は、2011年の東日本大震災とそれに伴う津波により福島第一原発でメルトダウン(炉心溶融)が発生し、世界最悪レベルの原子力災害を経験したこの国にとって一つの節目となる。

 再稼働する柏崎刈羽原発6号機は、福島で崩壊した原子炉と同様の設計であり、2011年の事故を受けて原発全54基の運転を停止して以来、再稼働される原子炉としては最大規模となる。  再稼働は、何年にもわたる安全検査や、自然災害から原子炉を保護するための新たな建設工事、そして原子炉が再び動いても近隣住民がリスクにさらされないと保証する長年の取り組みを経て実現した。津波による浸水防止策として、海抜15メートルの鉄筋コンクリート製の堤防が建設された。

政府は、日本の電源構成に占める原子力の割合を倍増させ、現在の約9%から2040年には20%にしたい考えだ。諸外国と同様、日本は化石燃料からの脱却を図る一方で、全般的な電気料金を押し上げることなく、大量に電力を消費するデータセンターや半導体受託生産施設のエネルギー需要を満たしたいと考えている。これらは人工知能(AI)革命の原動力になっている。

 それでも、本格的な「原子力ルネサンス」の道のりは遠いようだ。福島の事故から10年以上を経過してなお、運転中の原子炉は14基にとどまり、19基が今も停止状態にある。永久停止・廃炉の対象となったものは20基以上だ。地震国の日本では、原子力発電に対する国民の不安が依然として大きい。

 政府の20%目標が仮に達成されたとしても、日本の電源構成における原子力の割合は福島の事故前の30%を下回ることになる。当局者は代わりに太陽光や風力などの再生可能エネルギーがはるかに大きな役割を果たすことを将来の計画に組み込んでおり、日本の電力の40~50%を供給することを目指す。

 元通商産業省(現・経済産業省)官僚で、国際エネルギー機関(IEA)事務局長を務めた田中伸男氏は、原子力発電を望んでいると誰もが言うが、再稼働のために政治的資本を使っていないと指摘した。田中氏は、政府の20%目標を達成するには、停止中の原発をより多く、より迅速に再稼働させることが必要だと話す。

 一方、日本政府は20%目標には達成義務があるわけではなく、新しく高度な原子炉の建設を進めていくことに期待すると話している。

 日本の慎重姿勢は世界的な傾向に沿っている。米トランプ政権など多くの国の政府が原子力発電を増やしたいと言いつつも、世界の老朽化する原子炉群の増強に向けた具体的な進展は限られており、再生可能エネルギーが新規投資のはるかに大きな部分を占めている。

 これは、原発のコストの高さや、国民に根強い懐疑論、送電網にすぐ接続できる工場製の小型原子炉といった次世代技術を巡る約束が果たされていないことが背景にあると、専門家は述べている。

  国際原子力機関(IAEA)によると、米国で現在建設中の新しい原子炉の数はゼロだ。また世界で建設中の62基のうち、中国が28基を占めている。

 だがその取り組みでさえ、中国の再エネ推進の勢いに比べると見劣りする。中国の28基の原子炉が完成すれば、約30ギガワットの発電容量になる。一方、中国の国家エネルギー局によると、太陽光・風力発電によって2024年だけで発電容量が357ギガワット増えたとしている。

 「この状況が原子力ルネサンスだと思えるか」。世界の原子力エネルギー活動をまとめた年次報告書「世界原子力産業現状報告書(WNISR)」を発行しているマイケル・シュナイダー氏はこう問いかけた。同氏によると、稼働中の原子炉の数や、世界のエネルギーミックスにおける原子力の割合など、原子力産業活動の指標は何年も前にピークに達したという。

 柏崎刈羽原発6号機が再稼働すれば、出力は約1.4ギガワットとなり、およそ45万世帯に電力を供給できる。運営会社の東京電力は、1月20日に再稼働する予定だとしている。

 再稼働に先立ち、10年以上にわたって厳格化された原発規制に原子炉を適合させる作業が行われた。

 津波対策の巨大な防潮堤に加え、施設内には新たなバックアップ電源システムや、耐震性を高めるために補強された壁・配管・トラス構造が備えられている。また原子炉を7日間、中断なしに冷却するのに十分な水を蓄えた貯水池も設置されている。建屋内にたまった水素は水に変換されて爆発リスクを最小限に抑え、フィルターを使って空中に放出されるガスから放射性粒子を除去する。

 同原発がある新潟県は、険しい山々と豊かな水田が広がる、海に面した美しい田園地帯だ。県知事は11月、企業や住民との長い協議の末に、再稼働にゴーサインを出した。それは、東京電力が最初に原子炉再稼働に関する規制当局の承認を受けてから8年後のことだった。2021年には規制当局が多数のセキュリティー上の欠陥を見つけ、運転禁止措置を科した。この措置は2023年に解除された。

 知事が再稼働を決断する前、この地域で実施された世論調査では、住民の意見が割れていることが示された。県が委託した調査によると、50%は再稼働に前向きで、47%はいかなる安全対策が施されても反対だった。全体の60%は、原子炉の再稼働は時期尚早だと考えていた。

 新潟県在住で、再稼働に反対する新潟国際情報大学の佐々木寛教授は、再稼働に踏み出せるほど、住民は避難計画やその他の安全対策について十分な情報を得ていないと指摘する。

 「もっとこの状況をしっかりと当事者として考えられると、もっとみんな『大変だ』という理解になる」。佐々木氏は、新潟県内を回って避難問題を地元の人と議論した経験からこう述べた。

 一部の住民が不満に思うもう一つの点は、電力が東京中心とする首都圏に送られることだ。

 「柏崎刈羽から電力を送っていただくことは、首都のレジリエンス(強じんさ)という上で非常に重要だ」。東京商工会議所で理事・事務局長を務める大下英和氏はこう語った。

 同氏は「難しいとは思うが、できるなら、政府にはより再稼働のスピードを上げるというか、加速をする政策をしっかり打っていただきたい」と述べ、信頼できる電力供給を確保し、企業向けのエネルギー価格を抑えるために原子力発電は不可欠との考えを示した。

 福島では2011年、地震と津波の影響で原発の冷却システムが作動しなくなり、3基の原子炉がメルトダウンした。多くの住民が避難し、今も自宅に戻れていない人が数多くいる。

 日本はそれ以降、エネルギー需要を満たすため、天然ガスなどの化石燃料の輸入を増やしてきた。IEAによると、昨年の日本の電力の60%以上は石炭と天然ガスで生み出された。

 天然資源に乏しい日本は、エネルギー輸入への依存を長い間不安視してきたが、ロシアのウクライナ侵攻などの出来事を通じてこの懸念は増幅された。

 2月に発表されたエネルギー戦略の改訂版で、日本政府は輸入化石燃料に比べ、原子力発電は供給安定性や低炭素排出などの大きな利点があるとした。高市早苗新首相は、原子力発電の長年にわたる支持者だ。

 2017~22年に原子力規制委員会委員長を務めた更田豊志氏は、日本のエネルギーミックスにおいて原子力が果たす役割がどうであろうと、福島の記憶が次第に薄れる中、規制当局は油断してははならないと述べた。 「人は喉元すぎれば熱さを忘れるところがあり、事故の記憶の風化というのを非常に強く感じる」と更田氏は話した。

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